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(西暦は引用者による)

《家事裁判例紹介》

続柄「長女」を「長男」とする戸籍訂正を許可した事例

大島俊之(おおしま・としゆき)

水戸家庭裁判所土浦支部審判平成111999)年722日(平成11()23号戸籍訂正許可申立事件)家庭裁判月報511240頁―許可〔確定〕

民商法雑誌1233145152頁(200012月)

last edited 2001/03/07


【要旨】 出生時に外性器に異常があり、女性として出生届がなされたが、その性染色体および生殖腺の状態ならびに男性としての性別自認等からすれば、申立人は男性であり、戸籍筆頭者との続柄欄の「長女」を「長男」とする戸籍訂正を許可する。

【事実の概要】 申立人は、昭和46(1971)年6月4日に出生した。申立人は、出生当時、精巣が外に出ておらず、外性器に異常があった。両親が医師と相談した結果、申立人を女性として育てた方がよいということになり、「長女」として出生届がなされた。生後11か月時の診断で男性半陰陽と分かった。そして、3歳時に左側睾丸の除睾術と外唇形成手術が実施された。右側の睾丸は残されているが、発育が悪い。申立人の性別自認は一貫して男性であり、現在は、成年に達している。

【裁判理由】 「申立人の性染色体は46XYであり、診断書による病名は男性半陰陽であり、本来の性は男性であること、睾丸の働きが遅れたため出生時外陰部異常がみられ3歳時に左側の除睾術と外陰形成を施されたが、思春期に右側の除睾術は施されておらず、申立人の性別自認は一貫して男性であり、男性か女性かについての揺らぎは今後はみられることはなく、妊孕性はないものの性器の手術等により男性としての性行動が可能であることが認められる。そうすると、申立人が女性であることを前提とする戸籍の記載は真実に反するものというべきであるから、戸籍法113条により主文のとおり審判する」。

【参照条文】 戸籍法113条 戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。

【分析】

一    性別表記の訂正が問題となる事例

   戸籍上の性別表記の訂正が問題となる事例には、@間性(インターセックス、半陰陽)の場合と、A性同一性障害の場合とがある。本件は、前者の例である。(後略)

二    判例

   間性の場合に戸籍上の性別表記の訂正が認められた事例は、本件より前に、すでに公表されている(札幌高等裁判所決定平成3(1991)年3月13日家庭裁判月報48巻8号48頁。ただし原審の札幌家庭裁判所小樽支部審判平成元(1989)年3月3日は戸籍訂正を否定)。この事件の評釈としては、大島俊之「間性と性別表記の訂正」神戸学院法学29巻1号がある。東海林保「いわゆる性同一性障害と名の変更事件、戸籍訂正事件について」家庭裁判月報52巻7号には、その他の非公表事例が紹介されているが、いずれの事例においても、性別表記の訂正は認められている。

三    出生届 (略)

四    幼児期に性器の形成手術を実施すべきか (略)

五    性同一性障害の場合

   性同一性障害の場合に戸籍上の性別表記の訂正を認めなかった事例がすでに公表されている。@名古屋家庭裁判所審判昭和54(1979)927日・家庭裁判月報33961頁。A名古屋高等裁判所決定昭和54(1979)118日・家庭裁判月報33961頁=@の抗告審。この事件の評釈としては、大島俊之「性転換と戸籍訂正」法律時報55巻1号がある。B東京家庭裁判所八王子支部審判平成11(1999)89日・判例時報171862。C東京高等裁判所決定平成12(2000)29日・判例時報171862頁=Bの抗告審東海林保「いわゆる性同一性障害と名の変更事件、戸籍訂正事件について家庭裁判月報527号には、その他の非公表事例が紹介されているが、1例を除いては、性別表記の訂正は否定されている。

六    外国法

(1) 立法的な解決をした国

@ スウェーデンにおいては、(後略)

A ドイツにおいては、(後略)

B イタリアにおいては、 (後略)

C オランダは、(後略)

D トルコは、(後略)

E サウス・オーストラリア州は、(後略)

F ニュージーランドは、(後略)

G アメリカ合衆国においては、(後略)

H カナダにおいても、(後略)

(2) 行政的な解決をした国

オーストリアは、(後略)

〈3) 司法的な解決をした国

@ スイスの裁判所は、(後略)

A ドイツにおいては、(後略)

B スペインにおいては、(後略)

C フランスにおいては、(後略)

 

七    人権問題

   判例・学説においては、憲法13条(「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」―引用者挿入 )の規定する幸福追求権の一内容としてプライバシー権が認められている。ところが、性別表記の訂正が認められていない現状においては、性同一性障害者は、戸籍謄本、戸籍抄本、住民票、保険証などの提示が必要なときには、戸籍上の性別表記と身体的な外見の相違から、性同一性障害について知られることになる。このことは、重大なプライバシー権の侵害である。

   憲法24条2項は、「……婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と規定している。性同一性障害者の戸籍上の性別表記の訂正を認めないことは、事実上、性同一性障害者の婚姻を阻止することを意味する。このことは、性同一性障害者の尊厳を著しく傷つけている。

 

八    戸籍法113条の解釈

(1) 拡大解釈の必要性

   戸籍法制定の当時、立法者は、性同一性障害というものを知らなかった。そして、立法者は、現在、性同一性障害に関する特別法を制定していない。当事者の人権が重大な侵害を受けている現状においては、戸籍法113条の規定する「錯誤」の意味を拡大解釈して、司法的にこの問題の解決をはかるべきである。

(2) 間性の場合とのバランス

   出生の際の性の確認は、一般に、新生児の外性器の形態に基づいて行われる。間性の場合には、出生後の成長の結果を考慮し、また発生学的な性の他に、生殖腺の性、内分泌学的な性を考慮し、さらに形成手術の結果をも考慮して、出生時の性別の判定に錯誤があったとして、性別表記の訂正が認められている。それならば、性同一性障害の場合にも、出生後の成長の結果を考慮し、また精神的な性・心理的な性までも考慮し、さらに性再指定手術(一般には、「性転換手術」と呼ばれる)の結果も考慮して、出生時の性の確認に錯誤があったとして、性別表記の訂正を認めるべきである。

   発生学的性(性染色体の型)に固執すべきではない。すでに、裁判所は、間性の場合の性の判定基準として、発生学的性を唯一絶対の基準とはしていない。また、性再指定手術は、医学的に認められた治療方法であり、その結果としての身体的変容を考慮すべきである。

 

九    戸籍訂正を認めるための要件

(1) 医学的な要件

   @性同一性障害であるとの診断があること。 A性別再指定手術を受けていること。 B性的な外見(第二次性徴)が変容していること。

〈2) 社会的な要件

   社会における性的な役割が変容していること。

(3) 法的な要件

   @婚姻していないこと(戸籍上の性別表記の申請をする時点において、婚姻をしていないことを要件とすべきである。この要件は、同性どうしの者の婚姻が生じないようにするためである。なお、過去において婚姻していたことは障害とならない)。 A子のないことは要件とすべきではない。

 

   本件に関する評釈としては、田中恒朗「実父母との続柄欄の『長女』を『長男』とする戸籍訂正を許可した事例」判例タイムズ1036号がある。

 


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