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大島俊之:性同一性障害と戸籍訂正 (毎日新聞 2001/07/16朝刊・オピニオン「発言席」欄)

Opinion: Gender-Identity Disorder and Amendment of Family Registry (koseki) by OSHIMA Toshiyuki
(Print Edition of
Mainichi Shimbun 2001/07/16 (Morning))

uploaded 2001/07/16

(斜字は引用者)


   埼玉医科大などで性転換手術 sex reassignment surgery を受けた6人が,5月24日に,戸籍上の性別表記の訂正を求めて,各地の家庭裁判所に申し立てをした。戸籍の訂正には,家裁の許可が必要なためである(戸籍法113条・引用者)。また,日本精神神経学会は,最高裁長官, 両院議長,法務大臣などにあてて,「性同一性障害の法的性別に関する緊急要望書」を提出し,戸籍訂正を認めるべき旨を要望している。

   この機会に,20年間この問題に取り組んできた私も,戸籍訂正を認めるべきことを訴えたい。

   これまでに公表された裁判例では,性同一性障害 gender-identity disorder の人々の戸籍上の性別表記(続柄)の訂正は,一般に認められていない(許可1例,不許可9例)。このことは重大な人権侵害である。

   第一に,戸籍訂正を認めないことは,新しい性別で結婚することを認めないことを意味する。このことは極めて重大な人権侵害である(憲法24条・引用者)。

   第二に,戸籍謄本・抄本,住民票や保険証などの提示が必要な場合には,外見と性別表記が調和しないために,性同一性障害の人々は性同一性障害であるという事実を告白せざるを得ない。このことは,重大なプライバシー権の侵害である(憲法13条・引用者)。

   これまでに公表された裁判例は,戸籍訂正を認めない理由として,次の点を挙げている。

   第一には,人の性別は法的には性染色体 sex chromosome によって判断すべきである,というものである。しかし裁判所は,男性と女性の中間的な性質を持つ半陰陽 intersexual の人が訂正を求めた場合,このような基準をすでに否定している。

   第二には,訂正を認めるべきであるという国民的なコンセンサスがないと指摘している。しかし,訂正を認めないという国民的なコンセンサスもない。人権が耐えがたいまでに侵害されている場合には,裁判官は世論をリードすべきである。

   第三に,戸籍訂正を認めれば,他に重大な問題が生じると述べている。しかしすでに戸籍訂正を認めた事例がある(東京家裁の80年10月28日審判)。また半陰陽の場合は一般に戸籍訂正を認めているが,重大な問題は生じていない。諸外国においても,解決不可能な問題は生じていない。

   第四に,立法によって解決すべきであって,現行戸籍法によっては解決することができない,と述べている。確かに,すでに先進国の多くでは,性別表記の訂正を認めるための特別法が制定されている(アメリカ合衆国の多くの州,スウェーデン,ドイツ,オランダ,イタリア,ニュージーランドなど)。しかし特別法が制定されていないことを理由として,人権侵害を放置するのは,裁判官としての職責を放棄するものである。

   戸籍の記載に錯誤があった時に訂正を申請できると定めた,戸籍法113条の「錯誤」の意味を拡大解釈して,裁判によって解決することは可能である。スイス,スペイン,フランスなどでは,特別法は制定されていないが,類似の規定を拡大解釈し,裁判によってすでに訂正を認めている。

   私は次の三つの基本的な要件を満たしている場合には,家庭裁判所は戸籍訂正を許可すべきだと考える。@性同一性障害という医師の診断があることA性転換手術を受けていることB戸籍訂正の時点で婚姻していないこと。

   欧米のほとんどの国々は,すでに70〜80年代にかけて特別法を制定し,性別表記の訂正を認めている。これまで特別法を制定せず,性同一性障害者の人権侵害を放置してきた国会は怠慢だと言わざるを得ない。ただちに特別法を制定すべきである。


参考条文(引用者)

戸籍法第113
戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。

日本国憲法第13
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

同第24
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


Copyright 2001 The Mainichi Shimbun and Oshima Toshiyuki


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